「夢みるカオリン」
     1、

 ここは、この街のコミュニティセンターである。小学生の智子ちゃんと弟の太郎ちゃんが、カオリンおばあちゃんと話している。
「鶴と亀が合わせて15匹いて、それぞれの足の数を足し合わせると50本になる時、鶴と亀は何匹ずついるでしょう。という問題だけどね」
カオリンは、にこにこしながら答えた。
「もし、鶴が15羽全部だとすると、足は30本になり、20本だけ足の数が足りないね。さてどうしようかな。もし、亀が15匹全部だとすると、今度は足は60本となり、今度は10本だけ足が増えてしまう。どうも、鶴と亀が混ざっている感じだね。」
「当り前よ。問題にそのように書いてあるもん?」
「そこで、増えてしまう10本の足を減らすには、亀1匹と鶴1羽を交替させると、1つの入れ替えごとに2本ずつ足が減るね。または、足りない20本の足を増やすには、鶴1羽と亀1匹を交替させると、これも1つの入れ替えごとに2本ずつ増えるから、・・・」
「そうか、そうすると10本の足を、5羽の鶴で置き換えれば、5羽の鶴と10匹の亀になり足の数が50本になるのだね」
「そうだよ。智子ちゃんは賢いね」
「えへん」
と智子ちゃんは、自慢げに目をクリンとさせた。
「それなら、次に簡単な問題を出すよ。いいかな」
「小学生ができる問題にしてね」
「小学一年の時に勉強したことだよ」
「それなら、OKだ」
と小学4年生の智子ちゃんは、ちょっと安心した。
「1たす1は幾つだ?」
「なんだ、そんな簡単な問題。2だよ」
「正解」
「それならば、その2は幾つたす幾つだ?」
「ええ?!」
「1たす1でないのかな」
「それも正解。しかしまだまだあるよ」
「えーと。引き算を使ってもいい」
「そうだね。足し算も、引き算も、掛け算も、割り算も智子ちゃんは勉強しているね。それらを全部使ってもいいよ」
「それなら、2は5引く3だ」
「それも正解。正解!」
「まだあるよ。2は1かける2だ」
「正解!」
「まだある。2は4割る2だ」
「ピンポン!!」
「カオリン。2になるものって幾らでもあるような気がする。正解は1つだけと言うのでないとつまらない」
「智子ちゃん。それが人生と言うものよ。正解が1つしかないということはなく、色々な考え方をしていくことが大切なのよ」
その時丁度、通りかかったアキリンおばあちゃんが、今までのやり取りを聞いていて
「カオリン。子どもにそんな難しい人生論を話すことは難しすぎますよ。算数は簡単な答えになるのが望ましいわ」
「答えが1つになるという考え方では、すべての人が1つの方向に向かうということになる。金子みすゞさんの言うようにみんな違ってみんないいという人生観をこどもの時代から植えつけることが大切だと思うのよ。それを知ることで、たとえ色々な苦労や困難が来ても人生を乗り越えて行けると思うし、答えが多くある方が人生の選択の幅も広がるので良いと思っているのよ」
智子ちゃんはポカーンとしているが、難しい事を何とか理解しようとしている顔つきで2人のおばあちゃんの話を聞いている。
「智子ちゃん。お母さんが迎えに来たよ」
智子ちゃんのお母さんが、末の次郎ちゃんを抱っこして現れた。
「何時もすみません。子ども達がお世話になっていまして、ありがとうございます。智子、太郎、お昼御飯だから家に帰りましょう」
カオリンが、若いお母さんに向かって
「こども達は宝よ。大切に育てなさい。そして頑張りなさい」
「はい。いつもありがとうございます」
とお母さんは軽く会釈をして、太郎ちゃんの手を引いて帰って行った。
「アキリン。何か面白い話ない?」
この街では、おばあちゃんやおじいちゃんは皆コリン星からやってきたみたいで、おばあちゃんは自分の名前に「リン」とつけ、おじいちゃんは「タン」をつけて呼んでいる。そして、皆が集まる場所がカオリンの家でハイカラな言葉でコミュニィティセンター略してコミセンである。カオリンの家は元は雑貨屋であったが、いまはコミセンとしてだれでもが立ち寄れる場所になっている。
「今度、医者の上手なかかり方について私がお話するでしょう。そのレジメをどうしようかと思って、あなたに相談に来たのよ」
高貴(、、)高齢者が集まるコミセンでは月に何度か、誰かが中心になり講話をして、色々な事を話しあっている。そして、カオリンはパソコンを自由にこなしているので、いつもその講話のためのレジメを作成している。
「そうね。身近なところから話したら。あなたも昔は医科大学病院に勤務していたのだから、専門じゃない」
「そうは言うけれども、みんなに話すとなると緊張しちゃうし、何を話していいかわからなくなる」
「みんなは、いつまでも健康で、ピンピンころりという死に方を期待しているから、治療よりも予防、生活習慣病を日頃から治すという様な事を中心に話したら。さらに、医者の選び方とか、医者に行く時は、自分の体について質問できる良い機会だから色々なことを聞くようにするとか」
アキリンが顔をしかめながら言った。
「医者から嫌がられるような患者になれと言うこと」
「そうじゃないわよ。折角病気になったのだから、これをチャンスとして、医者との良好なコミュニケーションを図るようにするということよ。でも、あまり難しい話はしないでね」
「基本的な事は知ってほしいのよ」
「レジメは1ページでいいの?どんどん言って。ワードで作成するから」
カオリンが両手を使ってパソコンのキーボードをたたき始めた。
「あなた、両手でパソコンできるのね。私なんか娘にいつも言われるのよ。お母さん触らないで、お母さんがパソコンを触るといつも壊してしまうのだから。これを言われると一番つらいのよ。だから、娘がいない時にそっと触っているのよ。メールを送るにも一時間ほどかかるわ。この間もメールを複数の人に送付したら、皆からブツブツ文句言われたわよ。そんなことを話した覚えがないとか。それはあなたと私の秘密だったのよとか。もう大変」
「いいのよ。ブツブツ言わせておきなさい。なによ、それで人間関係が壊れるくらいなら友達として認めなければいいのよ。私なんかここから道路に聞こえるような声を出してしゃべっているから、隠し事ができないのよ」
「あなたは本当にストレスがないのね」
「そうかしら」「ユウタンが言っていたわ。コミセンに行くと、ストレスが解消されて、まるでストレスの公衆トイレみたいだって」
「今度ユウタンが来た時には、ストレスが一件解消するたびに公衆トイレの利用料金を払ってもらうわ」
「さぁ。出来たわよ」
カオリンが作ったワードの文章をアキリンに読んでもらう。
「あなた上手ね。カギ括弧やクエッション記号も入れるなんて。今度は何人来るかしら。十部位印刷しておいて」
「身近な問題だから、もっと多くの人が来るんじゃない。ピンピンころりを科学的に分析します、だからね」
「あらユウタンが来たわよ。噂をすれば・・・」
今日は背広にネクタイをしたユウタンがやって来た。
「御二人さん。何を話しているの?」
「今度のテーマについて話していたのよ」
「前回は、僕の我が街の歴史と言う格調高い話だったので、次回は大変だとは思うがね」
「今日はどこに行ってきたの。ネクタイなんかして」
「同窓会で昔の彼女に会うものだから、少しおめかしをして行ってきた。しかし、会わない方が良かったな。老けてしまっておばあちゃんになっていたよ」
「あなただって、おじいちゃんよ。彼女の方が会わなければ良かったと思ったかもよ?」
ユウタンは、少し極り悪そうに言った。
「久しぶりにネクタイをして、背を伸ばして話したので、今日は少し疲れたな」アキリンが話題を変えた。
「ね。次回の医者の上手なかかり方について考えてよ」
「医は仁術だから、先生の言うことを聞いて、その通りにすればいいと思うけれど。先生に質問するなんていうのは、もってのほかで、そんなことをすると痛い注射をされるよ」
「治れば、それでいい」
「しかしね。歳をとるとなかなか治らなくてね」
「いい医者に当たっていないのよ」
そこに、シンタンが自転車を押しながら通りかかった。
「私は高血圧の薬を飲んでいるけれど、あれを飲みだすと一生涯飲まなければならないのだよ」
「たいへんね」
「それで、一か月分の薬をもらう。毎回同じ薬なので一年分ぐらいもらえれば良いのに、なんていつも思っているのだがね」
アキリンはおこったような顔つきになり言い返した。
「医者と言うのは、いつも患者の状況を把握していなければならないのよ。2週間ごとに状況をチェックしなければならないのよ」
「そんな頻繁にはいけないし、毎回同じ薬だよ」
「次回のコミセンの話を聞きに来て。そのようなことがなぜだめかを話すから」「詳しく話してくれるなら、お薬手帳も持ってくるよ。あれも何冊もあるのでどれがどれであるかわからないけれども。しかし、高血圧に関する手帳は昨日貼ってもらったからすぐにわかると思う」
「今度来る時は全部持ってきて頂戴。コミセンには薬剤師さんもいるからね」
「はいはい。分かりました」
シンタンは、小学校の先生に叱られた時のように、肩をすぼめて帰って行った。コミセンに集まる
高貴(、、)な高齢者は、それぞれ専門領域で一家言を持っているので、簡単には妥協しない。カオリンは、八十才の時に、社交ダンスの競技会を見て、ゼッケンをつけた秀麗な男性に憧れ、まずダンス用ドレスを人に相談せずに作り、密かにダンスホールに通っていた。そして、カオリンの息子のヒロタンにダンスを踊りたいと誘惑した。また八十五歳になった時には、先輩から送られてきた年賀状に、あなたもパソコンで年賀状を作ってみたら、と言う一文に刺激され、パソコン教室に通い出し、今では町内のチラシや同窓会のお知らせ、コミセンのレジメを全部引き受けている。そして、今年百歳を迎え、総理大臣からお祝いをいただいた。しかし、挑戦はそれで終わらない。若い販売員の勧誘にほだされてスマートホンを購入し、孫やひ孫たちと毎日メール交換をしている。当初は電話だけだったが、今では日々に起きた出来事を簡単に作成し、写真も送付している様子だ

作者:馬鹿吐露
所在:金沢
経歴:不詳
趣味:バドミントン、囲碁
夢みる カオリン


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