里谷選手は勝負に出たが。上村選手はなぜ安全策を取ったのか。

2月21日付けの朝日新聞で青島健太さんが「氷雪の断面」というところで、開催国の「フエア」な取り組みについて記載している。
1)開催国は、会場の整備を地元選手に有利なように設営するので
2)それを事前に把握して、他国の選手は自分の技術、体力を強化しなければならない。
ということが主旨であると思う。
まず最初に上村選手が世界選手権で優勝した猪苗代の大会と今回のモーグル会場の違いを比較列記してみる。
<会場>        猪苗代           VANCOUVER
 コースの距離     223m           250m(27m長い)
 平均斜度       29.6度          28度(1.6度傾斜がなだらか)
 雪質          不明             不明
<選手>(上村選手との比較)
 カーニー(米国)                   
   時間計測                     27.86秒(1位、1.02秒速い)
   身長                        168cm(12cm高い)
   体重                        68Kg(19Kg重い)
 ハイル(カナダ)                   
   時間計測                     27.91秒(2位、0.97秒早い)
   身長                        163cm(7cm高い)
   体重                        55Kg(6Kg重い)
 上村(日本)
   時間計測                     28.88秒(4位)
   身長                        156cm
   体重                        49Kg
ここで、このコースの運動方程式を立ててみる。
平均斜度: Θ(度) 選手の質量: m(Kg) 重力の加速度: g(m/sec^2)
雪面からの抗力: N(Kg m/sec^2) 雪面とスキーの間の動摩擦係数: μf 空気抵抗係数をμrとすると重力は地球に引っ張られるので、垂直に働きまた効力は斜面に垂直に働く。
   N=m g cos(Θ)                      −−−−@
従って雪面との摩擦力は、質量mの関数となり斜面に平行に働き
   μf(m) N                           −−−−A
で与えられ、質量が大きいほどμf(m)は小さくなる。
また、空気抵抗は選手の腹面の表面積に比例して大きくなると考えると、
   μr(S)S                           −−−−B
また斜面を下る力は
   m g sin(Θ)                         −−−−C
となり、選手の速度をV(m/sec)とすると
   m(dV/dt)=mgsin(Θ)−μf(m)N− μr(S)S  −−−−D
で与えられる。次にコースの距離をLとすると
   L=∬(dV/dt dt)dt=1/2{g sin(Θ)−μf(m)g cos(Θ)−μr(S)S/m}t^2+C1 t+C2 ----E
t=0でL=0よりC2=0、t=0でV=0よりC1=0
従って
   L=1/2{g sin(Θ)−μf(m)g cos(Θ)−μr(S)S}t^2    −−−−F
となり、
   t=L/root[1/2{g sin(Θ)−μf(m)g cos(Θ)−μr(S)S/m}]  −−−−G
と滑り時間が求められる。ここでrootは平方根を表している。
この式から、質量が大きい人はμf(m)は小さく、さらに大型の選手でも前傾姿勢をとればμr(S)S/mも小さくなり、分母が大きくなるので、滑り時間は小さくなる。またΘが小さくなればなるほど、cos(Θ)が大きくなり、質量に依存する項目の寄与率が大きくなるので、緩やかな斜面ほど質量の大きい人が得になる。そしてさらにLが長くなればなるほど、滑り時間に差が出てくる事になる。ちなみに、猪苗代の国際大会では、Lが短く、平均斜度が急であるため上村選手が1位になり、今回2位に入ったカナダのハイル選手は、上村選手と大差の得点差で2位に甘んじている。
これらはあくまでも、凹凸のない斜面を滑る時の滑り時間を求めたものであり、最終的には其々の選手の凹凸の面を滑る技術または飛形にも左右される。しかし、それぞれの配点は25%であり、スピードが50%と配分が2倍大きいことを考えるとスピードを中心に強化すべきである事は言うまでもない。
会場と選手層の実力を事前に評価し開催国はどのような作戦で来るかを検討しておかなければならない。ところで、国際大会のコースの設営基準として、距離が235m±35m、平均斜度が28度±4度であるのでバンクーバーの会場も猪苗代の国際大会の会場もその規定内に収まっている。
 そこで、里谷選手は質量の大きい外国選手が有利な条件であるがゆえに、持ち前の負けん気で一発勝負に出たといえる。その失敗の姿を上村さんが見てしまったために、「日本に銅でもよいからメダルをもちかえりたい」と思ったのではないだろうか。上村選手が一発勝負に出て、もし失敗したとしても、このような理屈を知っていれば日本の応援団は失望しなかったであろう。とはいえ最善を尽くした上村選手にはお疲れさまでしたと暖かく迎えてあげたい。
 ちなみに、翌日の男子の若手選手がコースをほぼ直線的に滑り降り好記録を出したが、彼も一発勝負にでなければ勝てないと判断したのではないかと思われる。4年に一度のオリンピックは守りに入ったら平凡な記録となり、一発勝負に出ても運不運が伴う非常にスリルのある競技大会ではある。

〜数学的な考え方は、新聞を読むとき色々な場面で遭遇する〜
モーグル決勝での里谷選手の一発勝負